e-LOUPEの旬ネタコラム
- 中古戸建て
ホームインスペクションの義務化や契約不適合って?詳しく解説!
WRITER
岩井 数行
二級建築士 e-LOUPEインスペクター
今回はホームインスペクションと法律の関係についてお話ししていきます。
ホームインスペクションの実施を検討するならばぜひ事前に知っておいて欲しいのが「義務化」と「契約不適合」という言葉についてです。
少し専門的で複雑なお話が多くなりますが、住宅の売買を円滑に進める上でとても大切な知識ですのでぜひお読みいただければと思います。
目次
ホームインスペクションの「義務化」とは?
引用:国土交通省
まず前提として覚えておいて欲しいのは、ホームインスペクションについて義務を負っているのは全て「売主」であり、買主の立場を守るためのものだということです。
2018年(平成30年)4月に宅地建物取引業法(宅建業法)が改正されて施行されました。
この改正は、中古物件の流通を増やすという目的があります。
日本の住宅は世界的にもその割合が低いと言われており、その割合を増やすためにも、安心して中古物件の売買が行われる様にホームインスペクション(建物状況調査)を促す内容となっております。
そしてこの改正は宅建業者( 物件の売買に関わる不動産業者)に義務付けられたものであり、次の3点となります。
- 媒介契約締結時にインスペクション業者をあっせんできるかを説明する事
- 重要事項説明時にインスペクションの結果を買主に説明する事
- 売買契約締結時に現状の建物の状況を売主と買主に書類で説明する事
ホームインスペクション業者のあっせん
媒介契約時、宅建業者は買主に対して
- ホームインスペクションとは何なのか
- ホームインスペクション業者の紹介
について、詳しく説明をする義務があります。
もしこの時、ホームインスペクション業者を紹介でき、買主もホームインスペクションを実施する事を希望した場合には具体的な手配を進める事になります。
宅建業者は買主に「ホームインスペクションをお願いしたい」と言われた時にしっかりとホームインスペクションを業者に依頼できるようにしておく事が望ましいです。
ホームインスペクション結果の説明
もし売買契約に先立ってホームインスペクションを実施した場合、重要事項説明時に宅建業者は買主に対してホームインスペクションを実施した結果について説明する義務があります。
これにより買主は建物の現状をしっかり把握することができるため、建物の質を踏まえた購入判断ができるようになります。
また、ホームインスペクションの結果を元に「既存住宅瑕疵担保保険」の加入にも弾みがつきますので購入後の安心感を更に向上させることができます。
現状の建物の状況の売主と買主への書類での説明
売買契約を締結する際、基礎や外壁等の構造や雨漏りに関する状態を売り主買主双方共に確認し書類で説明する義務があります。
これにより今まで物件引き渡し後に生じていた「こんな不具合があるなんて知らなかった」というようなトラブルが減っていく事が期待されます。
宅建業法改正のまとめ
ホームインスペクションの義務化、と聞くと一見ホームインスペクションが必ず実施しないといけないもの、という風に聞こえるかもしれません。
しかし実際はホームインスペクションの実施が義務化された訳ではなく、ホームインスペクションの「告知」が義務化されたというわけです。
その影響で住宅取引業界にホームインスペクションの認知を促したのはもちろん、本来の目的であった中古住宅市場だけでなく新築住宅でもホームインスペクション需要が高まってきました。
ただその一方で告知が不十分であったり、知るタイミングが遅くてインスペクションを実施する事ができなかったという事例も生じています。その為、住宅を購入してからホームインスペクションを実施するといった事も少なからず発生しています。
又、宅建業者の一部では「インスペクションは中古物件のみ」という認識が広がり、逆に新築でのホームインスペクションに否定的になっているというケースも見られます。
いずれにしても買主としては、ホームインスペクションの存在やその意義をあらかじめ知っておくことが自身の立場を守ることにも繋がります。
こちらのページではホームインスペクションについてより詳しい解説をしていますので具体的な内容について知りたいと思っていただけたようでしたらぜひ併せてご参照ください。
住宅の売買における「契約不適合」とは?
民法は1896年(明治29年)に制定された後、120年以上大きな改正があることはありませんでした。
しかし2020年(令和2年)4月、「社会・経済の変化への対応」や「国民一般に分かりやすい民法」を目的として、改正されました。
その範囲は多くに及び、住宅業界においても影響があります。
民法改正では内容が分かりやすくなり、買主にとって有利な事も多くなりました。
先に上げた宅建業法は主に既存住宅での宅建業者向けですが、民法は売買に携わるものが対象になりますので、新築物件においても影響があります。
ここでは民法改正に関しての解説を行います。
瑕疵から契約不適合へ
以前より「瑕疵」という言葉は使われておりましたが、一般的にはなじみが無く、分かりにくい言葉でありました。
更には「隠れたる瑕疵」という考えもあり、万が一に何かしらの瑕疵(欠陥)があったとしても、瑕疵担保責任が認められるかどうかは、その判断が難しく保証を受けられなかったという事例もありました。
今回の改正により、「隠れた」や「瑕疵」といった用語は使用されなくなり、「契約の内容に適合しないもの」となりました。
結果としては以前の瑕疵とほぼ同様の事柄をさすものにはなりますが、隠れたという要件が無くなり、契約に適合しているかどうかが判断の基準となり明確になりました。
又「種類、品質又は数量」とも明記されており、契約と違う物の使用や数量が違うといった事に関してのトラブルも明文化されました。
買主の請求権
契約不適合となった場合の請求に関しても、買主にとっては使いやすいものとなりました。
- 契約解除
- 損害賠償請求
- 追完請求
- 代金減額請求
この様な手段ができるようになっており、損害賠償請求以外は売主に帰責事由なし(不備が無い場合)でも請求できるものとなります。
特に、追完請求(欠陥箇所の修繕を請求)は今までも行われてはいましたが、明文化されたことにより請求しやすくなっています。
代金減額請求に関しては、欠陥があってもその修繕に多大な費用がかかり、そのままでも性能に大きな影響が無い場合等で、今まではそのまま泣き寝入りになるようなケースでもその分値引きを受けられることにもなります。
今までは実質的にそのまま進めるか、契約解除するかといった事しか選択ができない場合もあったので、買主にとっては選択の幅が広がる事になります。
責任義務(時効)期間の変更
この項目に関しては、必ずしも買主に有利になったとは言えない点ですので注意が必要です。
引き渡しから10年間が期間となりますが、契約不適合を知ってから1年以内に通知、5年以内に権利の執行が必要となります。
何かしらの欠陥を確認した場合、なるべく早く対応するようにしましょう。
民法改正で重要な事
この改正に伴い「瑕疵」といったどこかあやふやな事柄から「契約」でどの様になっているかといった事が重要な判断材料となります。そのため、今後はより一層契約書の記載内容をしっかりと確認していく事が必要となります。
特に特約として売主側に有利な内容に変更しようとしている場合もあります。
契約書のひな形は色々公開されておりますので、それらと見比べてみるのも良いでしょう。
特に注文住宅では顕著ですが中古や新築建売でも、複数回にわたって売主と打合せをすることになります。
その様な際にしっかりと打合せ議事録を残しておきましょう。
一般的には売り主側が作成する事が多いですが、都度自分たちでも内容に間違いが無いかしっかりと確認する事が必要です。
口約束だけでは将来に禍根が残る場合もありますので、もし先方が記録を残さないようであっても、しっかりと自分たちで記録を残すことが必要です。
まとめ
今回は2018年4月の宅建業法の改正、2020年4月の民法改正というホームインスペクションに関わる大きな法律の動きについて紹介してきました。
宅建業法の改正は主として既存住宅での事柄ですが、2020年4月の民法改正は新築物件にも関わる点があります。
これらの内容はしっかりと確認をしておかないと無用なトラブルとなったり、得られる恩恵が無くなったりしてしまいます。建物を購入する際にはしっかりと確認しておきたいものです。
こちらのページではホームインスペクションについて詳しく紹介していますのでもし興味を持っていただけたようでしたらぜひ合わせて読んでみてください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
「見えないところへの徹底した追求」がe-LOUPEの基本方針です。