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「この傾きは大丈夫?」ホームインスペクションで分かる傾斜のリスク
WRITER
鳥居 龍人
二級建築士 e-LOUPEインスペクター
こんにちは。e-LOUPEの鳥居です。
「建物が傾いていないかどうか」はお客様からよくいただくご質問です。
ビー玉を床へ転がした建築士が「これはかなり傾いていますね!」と言っているのを見たことがある方は多いのではないでしょうか。
実際、傾斜の有無は建物の構造にも関わってくる問題で非常に重要です。
今回はそんな建物の傾斜について原因や調査方法を詳しく解説していきます。
目次
そもそも建物はなぜ傾く?
沈み込みやすい地盤
建物の傾きの原因として地盤があります。
地盤の中でも傾きに気をつけてほしいのは擁壁を建てるなどして地面を埋め立てて作る「盛土」です。
盛り土は別の場所から持ってきた土を乗せて固めて作るため、どうしても地面の硬さが劣りやすいのです。もちろん造成した土地では必ず地盤の締固めも行われますがそれが甘いと建物に傾きが生じてくる可能性も大きくなります。
一応地盤の強度は住宅を建てる前に調査を行います。
一般的な調査だと「ボーリング調査」と呼ばれる方法がありますが、ボーリング調査はその土地の中の代表的な箇所でしか行わないため、たとえ調査結果が問題なくてもそれが建物全体に言えるかどうかは判断が難しいところです。
特に崖地に建てられている住宅や川や池の側などであれば傾きやすい傾向があるため注意が必要です。
また、地盤の強さの見当をつけるには元々どういった地形だったのか(沼だったのか、田んぼかなど)を認識しておくのもいいと思います。(昔の土地の名前の決め方に「氵」さんずいが入っている土地は元々水に関わっていた場所というものがあるようです)
施工した職人の腕
殆どの職人さんは水平や垂直を細かく確認し建物を作っています。しかし中には少し手を抜く職人がいることも事実です。
悪い考えを持っている職人が立てた建物では様々な不良が散見されます。それが結果的に建物の傾きに繋がってしまうことがあるのです。
たとえば基礎と土台と固定する土台アンカーのナットが締められていなかったり、筋交いが必要な箇所になかったり・・・
こういった構造に直接関わる箇所の不具合は地震が起きた際に普通の住宅よりも揺れやすくなるため、家全体が大きくたわむことで傾斜が生まれることがあります。
ちなみに最近ではこういった金物締め忘れなどを無くし品質を適切にするため現場監督が目を光らせており、締め終わった金物には確認後にスプレーで色をつけて2重チェックを行っている業者もいます。
もし小屋裏や天井裏を覗いてみて金物にスプレーが吹いてあれば2重チェックしてくれたのかなと少し嬉しくなりますね。
細かいことではありますがこういうことの積み重ねで良い住宅が建つんだと感じます。
木材の反り
日本の多くの建物は木造住宅ですが、「木の性質」が傾きの原因となる場合もあります。
木材は時間の経過とともに乾燥し、その乾燥に伴い少しずつ形が変わります。その結果、床の傾斜や軋みなどが発生することがあるのです。
これを味と捉えるか不具合と捉えるかは人によりますが、あまりにもきつい傾斜はつまづきや気持ち悪さを引き起こすため注意が必要です。
ホームインスペクションでの傾き調査
指摘事項かどうかの判断基準
建物が傾いているかどうかというのは、「数値」で判断されます。どんな建物でも傾きが全くの0というわけではありません。
そのため私たちは「指摘事項となる基準と比べてどの程度か」という観点で建物の傾斜を測定しています。
建物の傾きは千分の○○(1メートルあたり何ミリの傾きがあるか)という単位で測定します。
このとき、指摘事項として報告するかどうかの目安の数値は品確法の基準に基づいて3/1000ミリ以上です。実際これくらいの傾きだと多くの方が違和感を感じると思います。
より具体的な基準は
- 3/1000未満 低い
- 3/1000~6/1000未満 一定程度存する
- 6/1000以上 高い
となっています。
基準だけでは判断できない場合も
先ほど一応の基準として3/1000ミリ以上という目安をご紹介しましたが、この基準を下回っていれば必ず問題がないというわけではありません。
たとえば3ミリ以下だったとしても全体が同じ方向に傾いている状態であれば、数値が小さかったとしても注意が必要となります。
重要なのは部分的な傾斜ではなく建物全体の傾斜です。
傾斜は1ヶ所の測定だけでは判断できない
お客様からはよく「自分で測ってみたんだけどこれは傾いているんじゃないの?」というご質問をいただきます。ビー玉を自分で転がしてみたら転がった!と心配されている方もいらっしゃいました。
しかし傾斜は1箇所で測っただけでは問題があるかどうか判断できません。
床の傾斜が全くない住宅なんて存在せず、必ず多少の角度が付いています。部分的な傾斜であれば施工時の誤差で生じている場合も考えられます。
傾きが出たからといってすぐに「建物がダメだ」と心配するのではなく、どの程度の傾きがどの範囲で起きているのかを踏まえ、総合的に判断する必要があります。
傾きは新築でも見つかり得る
これまでホームインスペクションを実施してきた物件でも、新築・中古問わず傾きに関する指摘事項を発見した事は何度かありました。
例えば、傾斜地の中古住宅を調べてみると建物も同じように傾いていたケース、新築でも床で6/1000以上の数値が出て是正工事となったケースなどです。
中には、築1年も経たずに傾きが生じてきてドアが自動で開くようになり、地盤改良が必要となった・・・というケースもあります。
もちろん、ビスの締め忘れやコーキングの剥がれといった軽微な指摘事項に比べれば滅多にあるケースではありません。
しかしやはり、そういったアクシデントが起こり得るということをまずは頭に入れておいた方がいいかなと思います。
建物の傾斜は修繕できる?
傾きはクロスの補修などと異なり、大規模な修繕に発展する可能性もあるのが厄介です。
軽微な傾きであれば床の張替えなどでごまかすこともできますが、建物全体の歪みや地盤の問題から傾斜を直そうとした場合、ジャッキアップや基礎の補強工事などで数百万円から一千万円以上する場合もあります。
施工時からの著しい不具合であればハウスメーカーに相談ができるかもしれませんが、中古住宅や長年住まわれている自宅などであれば対応を断られてしまうかもしれません。
どの程度まで修繕するかはやはり予算の都合によるところが大きくなるでしょう。
倒壊してしまうほどの傾きなのか、建具などへの影響が無いか、なども加味しつつ決めていくイメージだと思います。
まとめ
今回は建物の傾斜について詳しくご紹介してきました。(ホームインスペクション全体についてはこちらのページでも詳しく解説しています)
「現時点で傾きの兆候が見られるか」は最も確実な情報となります。
購入を考えた建物ではやはり傾斜の測定をしっかりと確認しておくのがいいのではないかと思います。
またそれに加え、施工店の評判や地理的な情報なども事前に確認しておけばより安心なのではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「見えないところへの徹底した追求」がe-LOUPEの基本方針です。