e-LOUPEの旬ネタコラム
- 新築戸建て
ホームインスペクションのクラック(ひび割れ)調査、プロの視点を解説!
WRITER
鳥居 龍人
二級建築士 e-LOUPEインスペクター
今回はホームインスペクションにおける「ひび割れ(クラック)」の調査についてお話しをしていきます。
「新築住宅なのに住み始めて1ヶ月で室内にひび割れが生じた!施工不良じゃないか?」
「購入予定の中古住宅の外壁がひびだらけ、これって大丈夫なの?」
「自宅の基礎をふと見てみたらひびが生じていた!崩れたりしませんか?」
こういったご質問をよくいただきます。
家にひび割れが生じているのを発見したときは誰もがびっくりすると思います。
しかし一言にひび割れと言っても発生した場所やひびの幅によってその意味合いは異なってきます。
このページでは実際のホームインスペクションでも依頼主様にご報告しているひび割れのリスクを、建物の部位ごとに対処法や調査法などを交えつつ解説していきます。
目次
ホームインスペクション、ひび割れ(クラック)はこう見る!
外壁
外壁と言っても種類は様々で、
- 一般的なサイディング壁
- モルタル壁
- タイル壁
- ALC壁
などがあります。
使用している外壁材によってひび割れが生じた際の注意点も変わってきます。
サイディング壁
一般的な窯業系のサイディング壁の場合、ひび割れの原因としては施工時のミスが考えられます。
外壁工事ではサイディングを固定するために釘を打ちますが、その際に外壁材の端部を強く叩いてしまうと周囲に割れが生じることがあるのです。
それ以外ですと、地震等で窓などの開口部周辺に斜めにひび割れが生じることもありますし、全体的に古く著しく割れが生じている場合は外壁材自体の寿命の可能性も考えられます。
ホームインスペクションでも割れの状況次第では外壁材の交換をお勧めする場合もあります。
モルタル壁
モルタル壁は壁面にモルタルを塗り劣化しないよう表面に塗装した外壁です。
モルタル壁はひび割れがもっとも生じやすい外壁です。
これはモルタルが硬化していく過程で乾燥し、それに伴い収縮が発生するからです。
またモルタル壁はサイディングと違って特に目地がないため、地震等で生じた力が逃げられないことからもひび割れが生じやすい傾向にあります。
生じたひび割れの大きさによっては水が壁内に入り込んでしまう恐れもあるため、注意が必要です。
タイル壁
タイル壁のひび割れは下地に原因がある傾向にあります。
下地のコンクリートなどにひび割れが発生し、それに追従する形で表面のタイルも割れてしまう、というものです。
タイル壁のひび割れ特有の注意点として、タイルの落下リスクがあります。これはサイディングやモルタル壁にはない特徴ですね。
もしひび割れが生じていた場合、地震などの際には注意してください。
ホームインスペクションでは打診棒やサーモグラフィカメラなどを用いてタイル壁のひび割れや浮きの状況を確認します。
ALC壁
ALC壁は気泡を含んだコンクリートで作られた外壁材で、重量が軽く断熱効果も高いことから非常に機能性の高い外壁です。
しかしその一方で、気泡を含んだ穴が無数にあるため割れやすいというデメリットも持ち合わせています。
ALC壁のひび割れの代表的な原因として考えられるのは地震です。
通常ALC壁は地震対策として揺れに追従する特別な金物によって施工されます。しかし中には揺れを吸収し切ることができない場合もあり、その際は各所に割れが生じてしてしまうのです。
ALCの補修には弾性のある塗料を塗ることでひびを追従させ、幅が広がらないように抑える手法が一般的です。
外壁のひび割れの危険性は?
これらのひび割れは0.3mm以下の細いひび割れであれば特段の問題はありませんが、幅が0.3mmを超えるものは構造クラックと呼ばれ、ひび割れから水が壁内に入り込む可能性があります。
ひび割れの補修方法としてはシーリング材と呼ばれるゴムの材料をひび割れ部分に充填し、上から塗装を行うことで補修を行ったり、再発する可能性を考え全体的に壁を直すこともあります。ひび割れの規模と補修に関わる料金を相談して施工を行うようにしましょう。
建物を雨水から守る「もう1つの」存在
一点補足として、外壁のひび割れはその部分から直接雨水などが建物内部への侵入を意味するわけではありません。
壁内には「防水紙」と呼ばれる紙が貼られており、外壁を通り抜けた水分を建物内部に入れないためのストッパーとしての機能を果たしているからです。
とはいえ、防水紙自体も人の手によって取り付けている物であり、多少の隙間が生じていたり留め具周辺の隙間から水が浸入する恐れがあるため、必ずしも安心というわけではありません。
基礎
ひび割れの判断基準
ホームインスペクションの基準である国土交通省が定めた「既存住宅インスペクションガイドライン」では、
- 幅0.5mm以上
- 深さ20mm以上
であれば指摘事項に当たるとしており、それ以下の数値の場合で軽微なものとして扱われます。
0.3mm以下のひび割れは「ヘアークラック」と呼ばれることもあります。
ヘアークラックの主な原因は外壁同様に「コンクリートの乾燥収縮」です。ごく自然な現象であり、0.3mm〜0.5mmを超えるものでなければ特に補修などを行う必要はありません。
基礎表面のヒビ割れ
基礎の表面にはうっすらとモルタルが塗られている場合があります。
これは「化粧モルタル」と言って、女性の化粧で例えるとファンデーション。荒れた基礎の表面をお化粧できれいに見せているものとなります。
化粧モルタルが塗られている基礎はひび割れが生じていたとしても特段の問題はありません。ひび割れが生じているのはあくまでも表面のモルタルに過ぎないからです。(著しく基礎全体にひびがあれば話は別ですが)
ちなみに肝心の基礎本体にはひび割れが発生している可能性もあり、表面に問題がなかったとしても注意が必要です。
基礎本体に問題がないかどうかを確かめるには基礎の「裏側」、つまり床下に進入して確認を行う必要があります。
もしホームインスペクションを実施する際は、床下への進入調査がメニューに含まれているかを確認して見るといいでしょう。
大きなひび割れが持つリスクと対策
もしガイドラインの基準を上回るような大きなひび割れを発見した際は、建物の耐久面でのリスクを疑う必要があります。
古い建物を除き、基礎は必ず内部に鉄筋の入った「鉄筋コンクリート」として施工されています。
しかし大きなひび割れを放置してしまうと、ひびに生じた隙間から水分が入り込み、内部の鉄筋を錆びさせる原因となります。
鉄筋が錆びるとどんどん膨張していき、結果的に建物を支える基礎コンクリートの強度低下にも繋がるのです。
指摘事項になり得るような大きなひび割れは主に、
- 経年による劣化
- 建築時の施工不良
- 地震による動き
- 地盤の弱さによる不同沈下
などが原因で発生します。
特に地盤の影響による建物の傾きやひび割れは、補修だけで済む話ではない場合もありますので注意が必要です。
主なひび割れの補修方法としてはシーリングの充填や、防弾チョッキにも用いられる「アラミド繊維」と呼ばれる材料を基礎の内側に貼り付ける方法などがあります。
不安を煽る基礎補修業者に注意!
悪徳業者によくある手口として「基礎のひび割れを補修しないと危ない」というものがあります。
しかし、ひび割れが数本あるからと言って高額な工事をすぐにしないといけないかと言えば答えは「否」です。
そもそも基礎のひび割れで建物が崩れる可能性は非常に低いです。
東日本大震災の際に津波に襲われた住宅でも、建屋の上だけが無くなって基礎はその場に残っている・・・という状況が見受けられました。
それほど基礎は強いものなのです。
訪問販売などで床下の確認をしたあとでひび割れがあり、すぐに高額な補強工事を勧めてくる業者もいますが、もし本当に補強工事を行うのであれば何社かに相見積もりを取り、納得の行く業者へご依頼することをオススメします。
その際も、先ほどご紹介した国土交通省の「既存住宅インスペクションガイドライン」を参考に、「どこに何mm程度の大きさのひび割れがあったのか?写真は撮ってくれたのか?」などをしっかり確認するといいでしょう。
土間
土間のひび割れの発生箇所は大きく、
- 外構部
- 建物の基礎の底版部
の2種類に分類できます。
両者ではひび割れが生じている場合の重要度が違います。
犬走り部
駐車場などの外構部分の土間コンクリートです。
外構部の土間コンクリートは転圧(押し固めて沈みこまないようにすること)をした地面の上に割れ防止の網を入れて作られます。
その際、転圧が不十分だと力が地面にうまく分散せず割れが生じることがあります。また、付近に大きな植物があると根がコンクリートを押し上げてしまいひび割れの原因となることもあります。
それ以外ですと乾燥収縮によるひび割れの可能性も考えられます。
いずれにしても犬走りに生じたひび割れはあくまでも建物とは無関係であり、構造上大きな影響はありません。
しかしながらバリアフリーの観点で考えると車に乗り込む際などに段差になっていると危ないため、不安なようでしたら補修をおすすめします。
具体的な補修方法として、植物の根が原因となっている場合は抜根を行います。転圧不足により地下に空間が生じているのであれば空洞部へ充填剤を注入します。
ただし、いずれも高額な施工となることを覚えておきましょう。
床下底版
基礎の底版部のひび割れの原因としてまず考えられるのはコンクリートのかぶり厚(内部の鉄筋から表面のコンクリートまでの厚さ)の薄さです。
通常、かぶり厚が十分であれば基礎底版への割れは起こりにくいですが、かぶり厚が薄いとちょっとした地震や乾燥収縮でひび割れが生じてしまうのです。
ちなみに広い土間ほどかぶり厚の薄さによるひび割れが起こりやすい傾向にあります。
これは施工時に土間の中央付近ほど凹みやすく、その分かぶり厚が薄くなるからです。
とはいえ、かぶり厚の薄さが原因で発生したひび割れであれば、土間にモルタルや補修材を流し込んで厚さを確保すれば問題はないものとなります。
問題はひび割れが非常に大きなものであった場合です。
あまりにも著しくひび割れがあるようであれば転圧不足や、地盤沈下、極度なかぶり厚不足などが考えられます。
幅が大きければ補修が望ましいですが、転圧不足や地盤沈下となると大規模な工事が必要となります。
前述した空洞部への充填の他に建物自体をジャッキで上げて水平を保つ補強工事もあります。
室内のひび割れ
新築住宅を購入されて一番気になるのはやはり屋内のひび割れだと思います。
早ければ購入してから1〜2ヶ月ほどで室内の壁にひび割れが入ることがあります。これらのひび割れは一体何が原因なのでしょうか。
最も一般的な原因は木材の「反り」です。
室内の壁は木材の上に石膏ボードを貼り付けてその上にさらに壁紙を貼ることで作られますが、木材は時間の経過で乾燥するので少しづつ反り始めます。
多少の反りであれば石膏ボードや壁紙も追従してくれるのですが、木材があまりにも変形すると壁紙が限界を超えてズバッと裂けてしまい、大きなひび割れが生じるのです。
それ以外ですと地震の揺れや交通量の多い道路の振動、建物の傾斜などが考えられます。
最も危険度が高いのは「内部構造材の接合の緩み」です。
木材の反りによって生じるひび割れであればホームセンターなどで補修材を購入すれば自分自身でも直せてしまいます。
しかし構造材の接合部の緩みが原因で生じていた場合は簡易的な補修が難しく、場合によっては室内の壁や天井を一部解体して確認する必要もあります。その場合、高額かつ大掛かりな工事になることが想定されます。
一旦は簡易的な補修で様子見をし、あまりにもひび割れが広がるようであれば上記のような壁内部の構造に関わる不具合の可能性を疑ってみる、というスタンスがおすすめです。
屋根
昔は瓦が多く使われていた屋根ですが現在ではスレート板やガルバニウム鋼板など様々な屋根材が使われています。
その中でも指摘事項をよく発見するのがスレート板です。
スレート板は職人さんが屋根に乗って作業をした際に踏みつけて割ってしまうことがあります。放置すると雨漏りに繋がる可能性が高く深刻な不具合に繋がってしまう可能性がありますし、高所であるため発見も難しく注意が必要です。
一応屋根にも壁面の防水紙のように水を通さないシートが敷かれているものの、これも確実に隙間がないわけではありません。もし屋根材のひび割れを見つけた際は補修することをおすすめします。
補修方法は屋根材のみの割れであれば物を交換してしまえば問題ありませんが、注意点として、時々間違った補修を行う職人もいるようです。
なるべく経験豊富な会社にお願いすると良いでしょう。
ちなみに屋根も基礎と同様に「訪問販売で屋根に登らせてください!状態の確認を無料で行います!」とやってくる業者がいますが故意に屋根材を割られる、ということもあるようです。
急にやってきた知らない業者は屋根には登らせないようにしましょう。
ひび割れの補修業者を探すには・・・
ホームインスペクションで補修の必要性をお伝えした際によくいただくのが「どうやって専門の業者を探せばいいかわからない・・・」というお声です。
そんな時、私はいつも「近隣の市役所へ行けばいいですよ」とお伝えさせていただいています。
多くの市役所には「建設科」があると思われますが、そこに登録されている業者であれば無茶なことを要求してくる業者は比較的少ない印象です。
また昨今ではインターネットの評価も確認出来るため、併せて業者選びの参考にしてみるのがおすすめです。
ひび割れの調査で気をつけていること
これは私自身のお話になるのですが、e-LOUPEでは、指摘事項だけではなく「問題はなかったけどもしかしたら心配に思うかもしれない」という場所についても報告を心がけています。
というのも、ホームインスペクションと一概に言っても目の前の状況に対する見解は調査会社によってまちまちです。
例えば数値上では低いひび割れでも広範囲に渡る場合は注意が必要として指摘するケースもあります。
また、インスペクターがひび割れの危険性を判断する根拠としてインスペクションガイドライン以外に、日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建造物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」というものがあり、微妙に基準も異なっています。
これらの要因から、人によってどうしても見解が分かれてしまうのです。
そのため私たちは、指摘事項である理由だけでなく、「指摘事項に該当しない理由」を説明することでより納得していただけるのではと考えています。
お客様に本当の意味で安心してもらえるホームインスペクションにしていきたいですね。
まとめ
いかがでしたか?
ひび割れには多くの種類がありますが、いずれも雨水の浸入や構造に関わる可能性があるため注意が必要だと言うことが伝わったかと思います。
e-LOUPEでは各所のひび割れの確認や住宅の状況を調査するホームインスペクションを行っています。
ひび割れを始め、住宅の専門的な調査をお考えでしたら、こちらのページホームインスペクションについてはこちらのページでホームインスペクションについてより詳しい解説をしていますのでもし興味を持っていただけたようでしたらぜひご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
「見えないところへの徹底した追求」がe-LOUPEの基本方針です。