e-LOUPEの旬ネタコラム
- 中古戸建て
建物状況調査を実施済み物件は安全?意外な落とし穴とは
WRITER
鳥居 龍人
二級建築士 e-LOUPEインスペクター
こんにちは。e-LOUPEの鳥居です。
最近では「売り主の依頼によって建物状況調査を実施済み」という中古物件が増えている印象です。
建物状況調査を先に行ってくれているなら安心・・・と思うかも知れませんが、実はいくつかの”落とし穴”もあります。
今回は建物状況調査を実施済み物件の注意点についてお話していきます。
目次
詳細な調査をしていない場合がほとんど
建物状況調査は国が定めたガイドラインをもとに実施され、調査結果のフォーマットもあらかじめ規定されたものが使われます。
しかし標準の調査項目は必要最低限の調査であり、隠れた問題や将来的なリスクを見逃す可能性があります。
とくに床下や屋根裏といった目に見えない部分は、点検口から周辺をのぞいての調査しか行われません。
精度の高い調査には追加料金を必要となるものの、物件を売る側としては「少しでもコストを抑えて高く売りたい」と考えるのが一般的です。
このような事情から、調査を行ったことにはなっていても調査の精度に疑問を残す場合がほとんどです。
具体的にどのような調査を実施したのか、報告書の有無などは事前に確認しておいた方がいいと思います。
不具合に目をつむる業者もいる!?
建物状況調査は公平な評価をする”第三者性”が非常に重要です。
「どうしても売りたいから不具合をないことにしてくれないか」「難癖つける協力をしてくれないか」
といった要求は突っぱねなければなりません。
しかしホームインスペクターの中にも第三者性を大事にしない業者が少なからず存在することを感じる出来事がありました。
ある都内の不動産会社から、購入を悩んでいる方のために事前調査をして欲しいと中古住宅の調査のご依頼をいただいた時のことです。
その業者は報告前に「調査結果は特段問題がなかったと伝えてください」と私に話しかけてきました。
もちろん買主には不具合も包み隠さずお伝えしたものの、そんな相談をすること自体が過去に成功例があるからに違いありません。
個人的な肌感としては、やはり事前に行った調査は少し信頼性が低いように感じてしまいます。
調査会社と仲介業者で起こりがちな連携不足
もし調査に買主が立ち会っていれば、調査結果や不具合の有無、具体的な指摘事項の箇所といった情報を調査員から直接確認できます。
しかし、事前調査となるとそうはなりません。
大体が「報告書に記載してありますので」とまとめられたファイルを渡されて終わりだと思います。
報告書には主要な指摘項目しか記載されることはありませんから、調査員が調査時に感じた細かい問題点までは知り得ません。
不正につながるような問題ではないものの、たとえば報告書に外壁にひび割れがあった時、
- ひび割れの程度
- 他の箇所への影響
- 1箇所なのか、複数なのか
- 確認できていない箇所の有無
- 雨漏れにつながる可能性
といった詳細を把握しているのは調査員のみです。
調査員と仲介業者で情報共有ができていればいいのですが、実際には細かなことを聞いても「報告書に書いてないからわからないですね」と言われかねません。
やはり不明瞭な点を一つでも削るためにも、できることなら購入前の検査には同行して直接確認しておくのがオススメです。
「問題なし」は”現時点”での話
よく勘違いされがちですが、報告書のチェック欄は「問題なし=安全」というわけではありません。
たとえ問題がなかったとしても、それは「今は大丈夫だが今後起きる可能性は否めない」「断定はできないので経過観察が必要とされる状態」という場合もあるので注意が必要です。
多くの場合では報告書には写真が添付されていますので、少しでも気になる点があれば現地で直接確認しておきましょう。
現地での確認が難しい場合でも、宅建業者に状態を確認してもらっておけば誤解や認識の食い違いといったリスクを減らせます。
同じ調査でも「どのような立場の人が」「どのような調査」を行ったかによって得られる情報は異なります。
調査に曖昧さを感じた時は確認するようにしましょう。
調査結果は”見える範囲で”という注釈がつく
建物状況調査は目視による検査です。
報告書上に記載されている内容はすべて「目視によって見える範囲では」という見えない注釈がつきます。
しかし建物には床下、小屋裏、屋根といった目視での確認が難しい場合も多くあります。
屋根の調査は双眼鏡などで下からのぞいて行いますが、屋根が平らだったり敷地が狭いと下からの確認が行えません。
小屋裏や床下も、点検口に頭を入れての調査だけでは正直不明瞭な部分が大部分を占めています。
とくに床下は基礎が入り組んでいるため、中へ進入しなければほとんどの不具合は確認できません。
やはり調査の信頼度を上げるにはオプションによる詳細な検査が必要だと思います。
調査実施済み物件で雨漏りを発見した話
以前、仲介業者によって建物状況調査を実施済の物件を再調査したところ、小屋裏で雨漏りを発見したことがあります。
発生していたのは点検口からは見えない場所で、しかも滴った水は天井断熱材の上に溜まっていたので室内からは異変に気づく術がありません。
進入調査をしていなければ劣化の進行に気づかなかったでしょうし、気づいた頃には大掛かりな工事が必要となっていたでしょう。
元々お客様からは「小屋裏と床下の進入調査をしてないから不安」と再調査のご依頼をいただいていたこともあり、やってよかったと強く感じていただけたようでした。
不明瞭な箇所をなくすためにも屋根であれば高所カメラによる調査、小屋裏床下であれば進入調査など詳細な確認が非常に重要です。
仲介業者に「今のおかしくないか?」と思った話
毎日調査をしていると、仲介業者とお客様のやり取りがどうしても耳に入ってきます。
しかし時折「ん?今の返答はおかしくないか?」と感じることがあります。
先日あったのが、洗面所のオーバーフロー(溜めた水が溢れないための穴)先のホース状配管がどこにもつながれていないのを、お客様が発見された際のやり取りでした。
「この配管なんですか?」という質問に対し仲介業者は「この配管はこの水受け部分に流れます!水が溜まったら溢れないように早めに捨ててくださいね!」と近くにあったシャワーホース用の水受けを指して笑顔で答えていたのです。
オーバーフロー配管は洗面台の排水に直接接続するものです。水受けなんかにオーバーフローの水を流したらすぐに満水になって辺りが水浸しになることでしょう。
思わず私は後ろから待ったをかけ、水受けには「シャワーホース用」と記載されていることをお伝えしました。
仲介業者もすぐにわかってくれたようでしたが、はっきりと自信満々に答えてくれたからと言って全面的に信用できるとは限らないと思った出来事でした。
仲介業者は住宅売買のプロではあるものの「建築のプロ」ではありません。
大丈夫という言葉一つでも「今までは何もなかったから大丈夫」というニュアンスが大きく、「施工的に問題がないので建物への影響はほとんどないですよ」という意味ではありません。
やはり施工のことは施工のプロに聞くのが一番だと思います。
さいごに
今回は”建物状況調査を実施済み”と謳っている物件の注意点をご紹介してきました。
もし仲介業者などの話を聞いて少しでも不安に感じるようなことがあれば、やはり追加の調査を実施するのが確実です。
とくに小屋裏や床下の進入調査を実施していないのであれば、それだけでも再調査の価値は十分あると思います。
内容と報告書を確認し、疑問点を洗い出してみてはいかがでしょうか(中古住宅のホームインスペクションについてはこちら)。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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